SIT

2000年4月1日、私は警視庁捜査第一課 “特殊犯係”の門を叩いた。


特殊犯係の部屋のドアを開けて中へ入ると、真正面の壁に

「弾痕が顔面から後頭部へ貫通したレントゲン写真」が貼られていた。


刑事部屋に張られたこのレントゲン写真って、いったい何だろう。私はぞっとした。

人質立てこもり事件で捜査指揮官が犯人に拳銃で撃たれたものだった。

この部屋の捜査員達は死を覚悟して、捜査に当たっている命知らずのプロ集団である。

その覚悟を胸に刻むため、貼られている物だった。

私は、一瞬不安を感じたが、ここで刑事として仕事ができることが光栄に思えた。


警視庁捜査第一課特殊犯捜査係は、身代金目的誘拐事件や人質立てこもり事件を担当する係です。要するに、誘拐された被害者や人質となった被害者が、犯人の手中に居る事件。

犯人に捜査が察知されたり、捜査のミスが起これば、被害者の命に関わってしまうのです。

殺人や強盗事件等は凶悪事件ではありますが、事件発生後に捜査します。

しかし特殊事件は、まさにリアルタイムな事件であり、犯人からの要求も来る。

被害者を無事に保護しながら、犯人も検挙するという難事件を扱う係なんですね。


なぜ、私が徳島県警から警視庁捜査第一課特殊犯へ出向したのか。


当時、私は徳島県警の捜査第一課強行犯の警部補として、殺人や強盗事件等の凶悪事件を担当していました。その頃、明石海峡大橋が開通して、本州から四国へわたり、徳島県内で事件を犯して本州へもどるというヒット・エンド・ラン型の事件が増加していたのです。

すると、当時の捜査第一課長から「あっきゃん、警視庁捜査第一課特殊犯へ行って、最新の捜査手法を勉強して来い。」という打診があったのです。

それは徳島県警史上初である出向でした。それほど凶悪事件が頻発し、捜査のレベルアップが急務だったという事です。


私は、警視庁捜査第一課特殊犯の凄さは認識していましたので、「はい、喜んで。」と快諾しました。


特殊犯としての日々は不眠不休は当たり前。過酷な物でした。

しかし、出向していた1年間で担当した事件は、身代金目的誘拐事件の他、たくさんの事件を経験させて頂き、私の刑事人生での宝となりました。


有名な事件を挙げると、『ルーシー・ブラックマンさん事件』で被疑者が所有していた約100個の携帯電話の解明、『NHKアナウンサー久保純子さん脅迫事件』の被疑者現行犯逮捕。『営団地下鉄日比谷線列車衝突事故』の被疑者の取調べ。『ジャンボ機ニアミス事故』の被疑者の取調べ等々。


改めて今後、私が経験した壮絶な現場の話を、ここにたくさん書いていきたいと思います。


特殊犯係は、SIT(Special.Investigation.Team)と呼ばれており、

徳島県警でもそのSIT魂を受け継ぎ、私から以降、毎年一名が出向するようになりました。

警視庁捜査第一課特殊犯の皆さん、本当にありがとうございました。

今後ともよろしくお願い申し上げます。